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都市の生き残り競争と日本の新生

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                                            2013.03.07

        都市が淘汰される時代、足による投票がこの国を新生する    

                                            まち・集落研究室 小林 修
1 沈みゆく国土

現在、多くの市町村は国同様、少子高齢化・人口減少と右肩下がり経済のもと、今後は一層深刻な財政危機や財政破綻が迫ってくる不安が濃厚である。シャッター通り商店街現象がマスコミをにぎわした2007年頃から目立って地方都市の衰退が意識されるなか、次に自治体縮退に向けた流れが急速に進んでいる。

しかし、国やその自治体はこれら本質問題を直視することなく、目の前の仕事のみこなしている。それを議会や市民、マスコミ等がせっつかないところをみると、国を挙げて傍観状況にあるのだといわざるをえない。

このままでは、各自治体がいたずらに延命を図ることで国全体の体力を失わせ、ここ10,15年で急激に立ち枯れていくのではないだろうか。問題先送りの段階はとうに過ぎた。このまま流されていくのでは、2040年、高齢化率39%の我が国は、もう立ち上がれないであろう。
* 定住自立圏構想も、人口5万人以上の中心都市という定義からして、延命的な対応といわざるをえない。この流れのなかの悪あがきに過ぎないであろう。しかし、多くの衰退市町村は、当構想も選択せず近視眼に徹し、立ち枯れへの流れを甘受しようとしている。


2 新生日本に向けて(提案要旨)

少子高齢化・人口減少とグローバル化の波に起因する様々な社会現象を俯瞰してみたい。すると足による投票の先に、2100年4800万人に向けて2030、2060年代と、質の高い都市と美しい国土、新生日本が見えてくる。

そのためにはまず第一に、政府や専門機関・マスコミが明日を見通せない市町村の縮退減少を前向きにとらえ、新しい国づくりの視点から方向性を示し、第二に、これからの日本を支えることになる「持続都市」選出に向けた都市間競争(選挙活動)を、積極的に煽っていくべきであろう。

以下、現在起こっている社会現象を概観し、新生日本に向けた道筋を考えてみ
たい。


3 足による投票への予兆

① 少子高齢化・人口減少の結果、2100年には日本の人口は4800万人
(国立社会保障・人口問題研究所 超長期参考推計人口)  

② 弱小市町村は、税収減や医療福祉費・インフラの維持管理費の増大で終局が近い。
  弱小市町村にある大半の資産は、急速に無価値化・不良資産化する
  ‥都市に向かう、移転縮退圧力

③ 国や自治体の深刻な財政状況の中、団塊世代は自分たちが高齢社会の担い手にならなくては、自分たちの福祉も危うくなる。確かな将来設計の一環として、積極的な人生を形成する場を都市に移し、そこで始める福祉のまちづくりが考えられる。彼らが後期高齢者になるまで、残された時間は10年である。
‥狭域の足による投票と福祉のまちづくり

④ 地方にあっても団塊ジュニア以降の世代は、質の高い都市的サービス(教育、雇用、消費サービス)が生活の前提になっている。それには人口20~30万人以上の都市規模が必要である。                ‥都市居住欲求・弱小市町村の縮退圧力

⑤ 相続されてきた土地建物や生まれ育った地域に縛りつけられた人は、一部の団塊世代とより高齢な世代で終わる(土の人*の歴史的消失)。
 右肩上がり経済の時代に育った世代から、低成長・情報化・少子高齢化人口減少時代に育った新世代へとレジューム・チェンジが起こる。
  ‥足による投票の促進要因
* 「土の人」:昭和30年代頃までの生業を引き継いできた自営的職業人と農民その家族などに見られる。反対は足の軽い「風の人」

⑥ 社会的流動性の高まり(故郷・家族・仕事など人を縛るものの減少)
雇用の流動化/結婚や家庭の形態の変化(非婚・離婚・共同生活・一族村・近距離家族、友人村)/地価の低減と土地へのこだわりの減少・財産相続の意義の薄れ/親世代が老後を子供に頼らなくなった、また子世代が親元にこだわらず生活拠点を定めるようになった。
住宅への価値観: 借りる・購入して改造~売却・リニューアル
  ‥足による投票の促進要因

⑦ 少子高齢化・人口減少とグローバル化の波で、地方に立地する企業や大学も事業の抜本的なリストラを迫られている。          ‥リストラ・足による投票への圧力


4 国土新生、三段階の流れ
短慮な延命策に陥らず、持続都市への投票行動を誘発しなくてはならない。さもないと、沈みゆくこの国の重しが取れない。

① 弱小市町村は縮退し、中心市に収束する段階‥2025年頃まで 
 弱小市町村は縮退し、身近な中心市(人口5万人以上・昼夜間人口比率1以上)に収束していく段階。若年・勤労世代の社会的移動はすでにピークを越えている。今後は、現在70代以上の高齢者の退出などによる、立ち枯れ的縮退に向かう。 

② 足による投票の時代(前期)‥持続可能都市の選出 2025~2040年頃   
 質の高い都市型サービスが得られる持続可能と思われる都市に向け、人や企業がシフトする(すでに相当進んでいる)。  

③ 足による投票の時代(後期)‥持続都市の選出 2040年~      
 2100年人口4800万人という長期の人口減少圧力の下、企業や大学の投資は持続都市の選出に向かう。それは、20万から30万人規模以上の都市であろう。
*政府や企業の体力やグローバル経済化と企業の再構築のタイミングから、主な時期は2020~2035年頃か

  市町村の縮退期は、団塊世代が後期高齢者になる2025年頃がピークと思われる。
足による投票は、少子高齢・人口減少化やグローバル化が一層明らかになり、現在の現役世代以降が移転先の都市を選択することになる。前向きな投票行動である。
足による投票前期は、低成長と高度情報化の時代に育った新世代に、本格的にレジュームチェンジする時期である。少子高齢・人口減少化とグローバル化、高度情報化社会しか知らない世代が形成する社会が到来する。彼らは、多様な都市生活を前提に、高い情報性や移動性を有する世代でもある。右肩上がり経済時代までの国土を整序し直す段階である。

時代は変革期から安定期に移っており、持続都市選出に向けた足による次の投票は、必要に応じ穏やかに進むと考えられる。この段階でも人口が減少しているということは、地域によっては都市存続に向けた選挙活動を仕掛ける意義がまだあるということだ。都市が選挙に出ること自体が、都市の活力と将来性のバロメーターとみなされる。各都市の魅力や質の高さは持続的に向上していくと期待される。
 

5 足による投票で期待される効果等

 ① 国の生き残り、新生につながる、地方からの大プロジェクトを仕掛ける時代である。しかし、その理念は国から突きつけられる。そこでラフな将来像を都市の構成員(国民)全員が共有することで自治体の無益な延命行為を監視できる。

 ② 自治体及び民間活力が中心となる事業である。自分たちの資産保全に向け、投資をどう生き金としていくかが問われる。財布のひもが緩みがちな従来の補助事業とは異なる。

 ③ ハード、ソフトとも、建設的な内需が発生する。

④ 候補都市とその構成員(自治体、企業、各種団体、大学、市民等)の総合力が問われ、構成員の主体性が鍛え上げられていく。

 ⑤ その過程で、手作りの参加型民主主義が形成される。
 
 ⑥ わが国民は、大きな目標さえ示されれば、その方向に一丸となって進む。

6 足による投票行動再考
① 弱小市町村の縮退は、国や自治体の財力からすると、2030年頃までには終了すべきである。現状、目立った動きが見られないなか、国が拙速に指導力を発揮することは、自治体が受け身に回ってしまうためできないが、延命策は認めないという国(国民)の決意を明らかにすれば2030年を待たず立ち枯れることが明確となるため、住民はもちろん自治体も重い腰を上げるだろう。

② 足による投票の前期では、40年、100年と持続できない可能性の高い都市の明示化を図り、長期投資はより持続可能の高い都市に投票されていくよう、政府は誘発すべきである。

③ 21世紀末人口4700万人に向け、人や資産が集約していくだろう。その後の国土の大方の形も見通せるだろう2050年頃には、国民資産も痩せてきている。その一部を4700万人に向けて集約していけばロスも少ない。拙速に持続都市に向けた投票を迫るのでは、逆にロスが多くなる危険も考えられる。

④ 既に持続都市と見なされるような大都市や県庁所在都市等にしても、活きのいい票の流出を防止するため、同じ選挙を戦うことになる。


7 その他、政府のすべきこと
① 土地の権利は公共性が優先することを前提に、縮退整序に向けた環境整備

 ② 国土新生に向けた国の第一声は、以下のようなものであろう。
1 都市間競争が魅力と活力のある国土をもたらす。
2 弱小市町村の縮退は不可避であり、延命措置は無益であり認めないと公言する。
3 超長期にわたり、国と自治体は国民が安心してその変化に応じられるよう、環境整備に努める。


7 補足説明

① 都市間選挙を戦うということ
ア この選挙は、相手都市はじめ他都市から投資を奪い取る生存競争でもあり、激しさを内包している。

イ 人口減少圧力の下、足による投票に負けた都市は、投資不適格の烙印を押されたことになり、縮退に向かう。
そのような戦いに相手都市を引きずり込むことで、双方が緊張感を高める効果は大きい。

ウ 都市の存続をかけた選挙となると、構成員にとっても極めて深刻な問題である。都市間選挙は構成員あげて知恵と力を絞り出す総力戦とすべきである。自治体はもちろん、企業や大学が活力や魅力にあふれ、他企業等の誘致に従事することで、投票(資本の移転)につながる。有機的な総力戦を戦うことで、構成員各員を含む都市総体が再構築される。その結果生まれる持続都市では、構成員ともに高い自治意識や能力が形成される。

エ 縮退する地域の活用については、私有権より公共の権利が優先することを確認し、大型農地等への整序を図る。
都市の後背地である弱小市町村が円滑に縮退し、都市近郊農地や大規模農業地域などに整序されていくことは、持続都市形成上も重要な事柄である。今後は県や国からの権限移譲を得て、持続都市が真の地方政府として業務を担うことになるだろう。

 ② 持続都市について
ア 超長期に渡る少子高齢化・人口減少圧力とグローバルな経済圧力のもと、雇用や都市型サービスの充実が保てる都市は限られる。

イ 都市型サービス、多様な就労機会、大学・研究教育機関、高度の医療・福祉施設や景観など高いアメニティを備え、人も企業も安心して投資したくなる都市

ウ 人口20万から30万人、現在の地方中核都市以上の都市。ただし観光地や、大農業地域の都市など相当広域なエリアについて、人口がどれだけ減少しようとも、地域の拠点として持続していく都市も該当する。縮退していく市町村、地域を集約し、都市的サービスを提供する。